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瀬尾糀店

2026.01.30薪の火と120年の伝統を守る、笑顔の糀(こうじ)づくり

陶芸の街として知られるこの地に、明治時代から120年続く「瀬尾糀店」があります。製造から小売までを家族で営むこのお店は、歴史の重みを守りながらも、訪れる人を包み込むような温かさに満ちています。
店を切り盛りするのは、商工会女性部長としても地域を照らす瀬尾雪子さん。その弾けるような笑顔と快活な言葉の端々には、120年の伝統を背負う覚悟と、次世代へ繋ぐ深い愛があります。
今日は、益子町商工会 経営指導員の黒子が、職人の魂と人間味が溶け合う、このお店の物語を探ります。

瀬尾糀店

1. 50年前の原点:会社員から「糀屋の嫁」への決断

瀬尾糀店

黒子: 本日はよろしくお願いします。瀬尾さんはいつも笑顔で、私たち商工会の活動も力強く支えてくださっています。今日は改めて、120年続くお店の歩みを聞かせてください。

瀬尾: こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。実は私ね、結婚前は「旭光学(ペンタックス)」という会社に勤めていたんですよ。そこで主人と出会って、職場結婚したんです。主人の実家がこの糀屋だったんですけど、最初は主人もそのまま会社勤めを続けていて。

黒子: 最初から家業を継いだわけではなかったんですね。

瀬尾: ええ。でも、二人目の子供が生まれた時、主人が「やっぱり実家を継ごう」と決心して会社を辞めたんです。私はしばらく子育てに専念していましたけど、下の子が幼稚園に入る頃に「私も手伝わなきゃ」と。そこからですね、私の糀屋人生が始まったのは。

黒子: 創業120年。当時はお義父様、お義母様、そして旦那様と4人での切り盛りだったんですね。

瀬尾: 主人が3代目、今は息子が継いで4代目になります。私はとにかく無我夢中で。でも家族みんなで力を合わせるのが当たり前だと思っていましたから。

黒子: その「家族の団結」こそが、今の瀬尾糀店の温かさの原点なんですね。

2. 「手づくり」へのこだわり:3日間の糀づくりと薪で煮る大豆

現代の食づくりにおいて、最も贅沢な原材料は「時間」かもしれません。瀬尾糀店があえて今でも大豆を「薪」で煮ることや、糀つくりに木箱を選ぶのは、それが「生きている糀」への敬意であることを知っているからです。

黒子: 瀬尾糀店さんのこだわりといえば、今でも大豆を「薪」で煮ていること。あえて薪にこだわる理由は何でしょうか?

瀬尾糀店
瀬尾糀店
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瀬尾: 理由はたった一つ。その方が「質」が良くて美味しいからです。お米を蒸すのはガスを使いますが、お味噌の命である大豆だけは、絶対に薪の火。早朝7時から火を焚き始め、4時間じっくりと。アクを丁寧に掬い、火の加減を見ながら水を足す……この手間が、機械では出せない深い味を生むんです。何事も手づくり、手作業。時間をかけてつくる。結局、それが一番美味しいんです。

黒子: 朝7時から4時間…!!!

瀬尾: 糀づくりも同じです。3日間、温度管理のために片時も目が離せません。蒸したお米を100枚の木箱に、1升ずつ手作業で広げていくんです。杉の箱の香りと、手に伝わるお米の熱。そこで「おいしくなれ、おいしくなれ」って魔法をかけるの。

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黒子: 100枚もの箱に一枚ずつ……。その丁寧さが、120年愛される理由なんですね。

瀬尾: 手間がかかるということは、心を込める時間があるということ。それが私たちの誇りなんです。糀づくりは、まず白米を研いで一晩水に浸すことから。次の朝、ガスで一気に蒸し上げます。それを布に広げて覚ましてから、糀菌を混ぜて……。そこからが勝負です。3日間、つきっきりで温度管理をするんですよ。

黒子: 3日間、休む暇もありませんね。

瀬尾: 最近は、若いお母さんが「自分でも仕込みたい」って糀だけを買いに来てくださるのを見ると、あぁ、手作りの良さがちゃんと伝わっているんだなって、嬉しくなりますね。

瀬尾糀店

3. 瀬尾糀店の逸品:食べる人を元気にする「生きた」味

発酵食品ブームと言われる昨今ですが、瀬尾糀店の商品は単なるトレンドではありません。そこにあるのは、120年という「時」の重みと、日々の食卓をあずかる主婦としての知恵です。

瀬尾糀店

黒子: 店内の冷蔵庫には、愛情が詰まった商品が並んでいますが、一番人気の王道は何でしょうか?

瀬尾: やはり味噌ですね!大豆1に対して糀を1.5倍も使った、贅沢な「糀たっぷり味噌」が一番人気です。それと、ぜひ見てほしいのがこれ。20年熟成させた「田楽味噌」です。

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黒子: 20年! 2年熟成のものと比べても、色が格段に深くて、黒に近い濃い色をしていますね。

瀬尾: そう、このコクは時間がおいしくしてくれるんです。それから、甘酒も自慢ですよ。うちは「糀100%」。お酒を一切入れず、9時間かけてじっくり熱を通すことで、お米本来の甘みを引き出しています。アルコールがダメな方でも、これなら大丈夫。

瀬尾糀店

黒子: 料理上手な瀬尾さん直伝の、糀の活用術もぜひ教えてください。

瀬尾: 「塩糀」は魔法の調味料ですよ。鶏の唐揚げを揚げる前に3時間くらい漬け込むと、お肉が本当に柔らかくなる。あとは、ご飯を炊く時に大さじ一杯入れるだけで、ふっくらツヤツヤに炊き上がります。

瀬尾糀店

黒子: ご飯と一緒に炊くんですか~!是非試してみます!それと、この「青唐辛子こうじ漬け」は、お土産でも大人気の商品ですよね。

瀬尾糀店
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瀬尾: 試してみます?(笑)。契約農家さんの青唐辛子を、醤油ベースで糀をじっくり煮詰めたものです。パンに塗ってチーズを乗せてトーストすると絶品なのよ。

黒子: (激辛を試食して)…… きました、後からきますね! 辛い、でも美味しい!

瀬尾: その辛さがクセになるでしょう? 豆腐に乗せたり、煮物の隠し味にしたり。お客様に食べ方を教えるのも、私の大切な仕事なんです。

4. 家族の絆と支え:一歩後ろから支える「笑顔の哲学」

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瀬尾糀店の強みは、技術だけではありません。瀬尾雪子さんの存在が、お店全体の空気を柔らかく、それでいて力強いものにしています。

黒子: 瀬尾さんとお会いすると、いつも元気をいただきます。その前向きな心の保ち方は、どこから来るのでしょうか。

瀬尾: 「主人の一歩後ろを歩いて支える」。これは友人から教わった言葉ですが、ずっと大切にしています。私が「わあわあ」と言っても(笑)、主人が穏やかに受け止めてくれるから喧嘩にならない。本当に、主人の忍耐強さには感謝しています。

黒子: 旦那様への深い信頼を感じます。お二人の仲睦まじいエピソード、以前伺った「靴下」のお話が大好きなんです。

瀬尾: あら、恥ずかしいわ(笑)。主人は本当に口数が少なくて。朝、靴下を履かせてあげようとすると、何も言わずにすっと足を出すんですよ。私が靴下を広げて待っているとね。そんな「阿吽の呼吸」というか、何気ない日常が一番の幸せだなって。

黒子: 素敵な光景ですね。昨年は入院も経験されましたが、それが家族の絆をより強くしたとお聞きしました。

瀬尾: 去年の2月、ちょっと入院したんです。それをきっかけに、予定より早く息子夫婦が同居してくれることになって。手術で、体の詰まっているところが「ぱっと弾けてすっかり流れた!」ような感覚があって。それ以来、不思議と、「めんどくさい」って思うことがなくなったんです。体がスムーズに動くことがありがたくて。今はすべてを「プラス思考」で捉えられるようになりました。

黒子: 瀬尾さんの笑顔が、ご家族、そしてお店に集まるお客様を照らす太陽になっているんですね。

5. 未来へつなぐ:4代目への期待と地域への想い

伝統を守ることは、変化を受け入れることでもあり、4代目の息子さんへと引き継がれています。この承継も、瀬尾さんの病気が一つのきっかけになり、息子さん家族が同居したことで加速しました。

黒子: 代表のお名前が息子さんに変わり、4代目の時代が本格的に始まりました。

瀬尾: 息子は私と違って、すごく計画的で真面目なんです(笑)。伝統は守りつつ、自分の感性で新しい商品を一つでも二つでも作っていってほしい。それが私の願いです。地元の小学2年生が「町探検」で来るんですが、その時はなるべく息子に対応させるようにしています。子どもたちの鋭い質問に一生懸命答えている姿を見ると、「あぁ、頼もしくなったな」って。

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黒子: 早いもので、商工会女性部長としてお会いしてから、もう5年のお付き合いになりますが、いつも前向きで、部長から、「疲れた」という言葉を一度も聞いたことがありません。お忙しいとは思いますが、これからも、家業と女性部活動の両立をお願いいたします。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

瀬尾: こちらこそ、よろしくお願いします。これからも、家族みんなで、笑顔を絶やさず、地域の皆さんに「瀬尾さんのところのなら安心だね」と言っていただけるお店であり続けたいですね。

黒子: 素晴らしいですね!最後に、まだ瀬尾糀店の商品を手に取ってない方へメッセ-ジをお願いします。

瀬尾: 私たちの作る糀や味噌は、すべて『生きて』います。3日間手間をかけた糀も、薪の火でじっくり煮た大豆も、皆さんが一口食べた時に『あ、美味しいな、元気になるな』と感じていただけることを一番に願って作っています。毎日の食卓が、少しでも温かく、笑顔になるお手伝いができれば幸いです。益子の小さなお店ですが、ぜひ一度、私たちの『生きた味』に会いに来てくださいね。心よりお待ちしております。

黒子: 今日は本当にありがとうございました。皆さまに手造りの良さが十分伝わったと思います

瀬尾: こちらこそありがとうございました。(満面の笑みで)

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