本日は、益子町で長く続けられている養鶏場さんがお店をリニューアルされたとの事で、お邪魔しています。養鶏場らしく、向かって右手には鶏が沢山飼われているのが見えますね!そして店舗の奥には忙く働くスタッフの皆様が見えます。
真剣な顔で卵を磨いているのが、代表の薄羽哲哉さんです。
今日は、薄羽さんにこちらの店舗についてお話を伺いたいと思います。
薄羽さん、どうぞよろしくお願いいたします。
薄羽:どうぞよろしくお願いします。
まず、こちらは直売店として長く続けていらっしゃったと思いますが、今回のリニューアルのきっかけは何だったのでしょうか?
薄羽:きっかけは、2年前のコロナ禍です。人の動きががらりと変わってしまった時でした。その時にあった事業再構築補助金という補助金を使わせていただいて、新しい商品の開発とほぼ同時に着手しました。商工会さんには申請からその後までお世話になっています。
恐れ入ります。2年前はかなり事業者に厳しい時だったと思いますが、思い切った着手ですよね。
薄羽:ちょうどその頃、2022年に「食べチョクアワード」などを受賞しまして。有難いことに畜産物カテゴリと総合で1位を頂戴したんです。
それからポケットマルシェでも畜産部門1位をいただきました。
この2つが大きくて、ECでの販売が拡大したんですね。
ですから、コロナ禍でもうちは比較的被害が少なく、むしろ人流が少ないこの時に、次の事を考えようという事で、もともと構想のあった店舗リニューアルに踏み切りました。
さすが、戦略的ですね。
もともと構想があったとおっしゃいましたが、具体的にはいつごろから考えていたのですか?
薄羽:実際は、私がここに戻ってきた頃からですから、7年くらい前からですかね。
そもそもこちらの養鶏場は、哲哉さんのお父様が始められたのですか?
薄羽:いえ、祖父です。祖父が養鶏を始めて、その後父が直売所を始めました。直売所は今から30年ほど前ですから、平成の初期ですね。
その頃は「直売所」というもの自体がまだ珍しいと言うか、農産物直売所自体がほとんどない時代だったので。とにかく屋根と売り場があればそれで良かった。
今でも農家さんの軒先に「野菜の直売所」のようなものを見る事はありますね。
薄羽:そうそう。そういうことです。うちも正にそうで、店舗というより作業小屋。それで30年やってきたんですが、何よりバックヤードが無いのが大変なんですよ。
というより、バックヤードしか無い、と言ったほうが正しいかな。
卵の積み下ろしの為にお客様を外に待たせるような事が度々あって、しかもそれが雨や雪の中だったりするわけですよ。
本当に申し訳無くて。
暑さや寒さも堪えそうですね。
薄羽:はい。お客様の滞在時間も自然と短くなるし、何よりスタッフのみんなに夏は暑く、冬は外気温と同じかつ寒風が入ってくるので辛い思いをさせていましたね。
今回、リニューアルに合わせてエアコンが入ったんですけど。工事しているときにスタッフのみんながザワザワしてて。エアコンらしいぞ、って事でみんな歓声を上げていました。何だか、今まで思った以上に厳しい状況で働かせてしまっていたんだなと思って、申し訳ないというか、こみ上げるものがありましたね。
確かに、こんどのお店は基礎もしっかりとしていて、立派な売り場と作業スペースもあって、労働環境も良さそうですね!
さて、お店のリニューアルという事ですので、改めてイチ押しの商品を教えていただけますか?
薄羽:まずは卵ですが、平飼いの「元気たまご」ですね。餌に酵母を加えていて、赤みの強い黄身になっています。味もしっかりしていて、美味しいですよ。
平飼いという事は、ケージに囲っている飼い方でなくて、自由に歩き回っているという事ですよね。
薄羽:そうです。世の中に出回っている卵の95%はケージ飼いです。うちはケージ飼いと平飼いのどちらも行っています。
ケージ飼いはどうしても鶏にストレスを与えてしまいます。それを嫌うお客様も一定いらっしゃるので、うちは2種類の飼育をしています。
どうして世の中の養鶏はほとんどがケージ飼いなのですか?
薄羽:効率的だからです。平飼いはとにかく場所が必要だし、卵を回収するのも鶏舎の中を分け入って、一つ一つ拾う事になります。毎日の事ですから、中々重労働ですよ。
ケージであれば、卵は自動的に回収できますからね。
それから、餌の量も違います。平飼いの方が動き回りますから、よく餌を食べる。
ケージで120グラムだとしたら、平飼いは150グラムくらい食べます。
かなり違いますね!餌代だけでも大変だ。
薄羽:特に昨今は餌代が高騰していますから、難しいですね。
そんな苦労を掛けて作られる平飼い卵は、やはり美味しいのでしょうね。
薄羽:実はここだけの話、ケージか平飼いかでは味はあまり変わりません。
ええっ!
薄羽:もちろん鶏のストレスに違いはありますけどね。卵の味の大きな部分を占めるのは、餌なんですよ。
それは…。なんだかショックのような…。だから卵のほとんどはケージ飼いの卵になってしまうんですね。
薄羽:ですので、うちはケージ飼いにふさわしい餌と環境、平飼いにふさわしい餌と環境をそれぞれ気を付けて生産しています。
うちの2種類の卵には、味の違いがありますよ。
わたしとしては、平飼いの卵を気に入るお客様がもっと増えたら嬉しいですね。
卵以外にも加工品を作られていると聞きますが。
薄羽:はい。まずはフィナンシェ(焼き菓子)です。
これは卵の規格外品を利用して作っています。
卵の規格外品とは、具体的にどういったものなのですか?
薄羽:卵が小さかったり、殻がイビツだったり、殻が薄かったりするものですね。
もちろん味は規格品と変わりません。
そもそもこの商品開発は、規格外の卵を活用したい、というところからなんです。
ウクライナでの戦争が始まったころから、飼料の価格が1.5倍くらいまで高騰しました。そしてそれは今も変わっていません。
もともと卵は「物価の優等生」なんて言葉もあるくらい小売価格が変わらない品物ですから、うちも販売価格を上げるのは限界があります。お客様は正直ですからね。
それで、何とか規格外として価値が低かった卵を活用できないかと考えていて生まれた商品なんです。
なるほど。企業努力のたまものなんですね。お客様の反応はいかがですか?
薄羽:おかげさまで、味が濃くて美味しい、というお声をいただきます。
まだまだ改良の余地はあるだろうと思いますが、まずは認めていただいたのが嬉しいですね。
他にはどんな商品があるのでしょう?
薄羽:はい。もう一つご紹介したいのはバターチキンカレーです。
バター、と銘打ってますがトマトの酸味もあるレトルトカレーです。
こちらは、チキンということですが?
薄羽:はい。うちで卵を産み終えた廃鶏を使用しています。
ご承知のとおり、通常は肉を食べる為の鶏をブロイラーと呼び、卵を生むための鶏はレイヤーと呼びます。
これはそもそも品種から違って、ブロイラーは肉付きが良く、一般的に生まれて2~3ヵ月で出荷されます。
レイヤーは1~1年半くらい卵を産み続けて、その後は廃鶏として処理されて、ハムやソーセージになったり、ペットの餌になったりするんです。
分かっていたつもりでしたが…。改めて聞くと考える事がありますね。
薄羽:うちはその廃鶏を沢山出してしまう訳ですから、なんとかこの価値を高めたいという事で、食肉業者の加工場から廃鶏を買い戻してカレーに仕立ててみました。
レイヤーは硬さがあって食用には向かない、と聞いたことがありますが。
薄羽:レトルトのカレーにしたことで、硬さは気にならないと思います。こちらも多くの方に食べていただいて、感想を聞きたいですね。
わざわざ廃鶏を買い戻すというのは、なんだか執念を感じますね。
薄羽:自社で加工できないからなんですけどね。
発想のもとにあるのは、昔の民家の養鶏ですね。
加藤さん(注:聴き手)の2つくらい前の世代までは、自宅で鶏を飼うのって普通にあったんですよ。知ってますか?
ああ、言われてみれば、祖父の家のご近所さんにそういう方がいらっしゃいましたね。
薄羽:そう。うちもじいさんの世代では普通だった。普通の民家が鶏を育てて、卵を産ませて食べる。それで、時期が来たら屠殺して鶏も食べたんです。
…なるほど。
卵を産ませる為に飼ったのだから最後まで命に責任を持つ、という風に聞こえます。
薄羽:それが、外国から安い鶏肉が入ってきたり、住宅事情も変わって糞などの悪臭もあることから、みんな自宅で飼うのを辞めてしまったんです。
だから、卵を産み終えた鶏がどうなるのかが知られなくなった。
チキンカレーは、ささやかですがその精神を取り戻したい、というような事です。
では最後に、お店の今後について伺います。
リニューアルをされたばかりのタイミングでお邪魔しましたから、これから色々と内装にこだわったり、楽しい雰囲気を作ってゆくのだろうと思います。
具体的にはどのようなお店にされるご予定ですか?
薄羽:正直、今のところは歩きながら考えると言うか。走りながら考える感じがあります。
通常であれば、店舗はコンセプトを明確にして、それに合わせて店舗設計だったりとか商品構成を作り込んでゆくものだと思うんですけども、うちの場合、なかなかそれが難しいと思っているんですね。
と言うのは?
薄羽:あまりにも新しいコンセプトありきだと、今まで長い間ついてきてくれたお客さんが離れてしまうんじゃないかと思っていて。
今は50代以上の方が占める割合が7、8割以上なので。
直売所として30年ですものね。30年からのお付き合いのお客様がいらっしゃるわけですね。
薄羽:そのボリュームゾーンであるお客さまが離れてしまうと、何のためにリニューアルをやってるのかが分からなくなってしまうので。
まず今のお客様に今の新しい店舗に慣れていってもらって、その中で少しずつ 中身を整えていきたいなと。
例えばフィナンシェをやるお店だからすごく可愛らしくしなきゃいけないとか、 スタイリッシュにしなきゃいけないっていうことは考えていなくて、これからお客様やお店の方と 一緒に考えていくという事ですね。 小さなバージョンアップを少しずつ繰り返す、という事ですから、むしろ今っぽいかもしれませんね。本当の地元密着というか。 では、今のところはどんなことをイメージされてるんですか。
薄羽:そうですね。いらっしゃるお客様で月に2、3回「鶏肉は売ってないんですか。」という問い合わせがあるんですよ。外国人の方や観光客、常連さんで思いつきの方なんかも。 ニーズに合うものを置くのが大切だと思うので、少しずつ鶏関連や卵関連の商品を揃えていくような感じですね。
フィナンシェはきっと若い方も好まれるんじゃないかと思いますし、ECサイトが充実していますから、今まではネット購入だけだったけど店舗に来てみたという方もこれから増えますね。
薄羽:そうですね。うんうん。ECで知ってくださって、益子に観光に来た時に「そういえばECで買ってる養鶏場が近くにあるな」ってことで寄ってもらえたりとか。 逆に観光でふらっと来た人がうちに寄って、後日ECで購入してもらうのも大歓迎ですよね。
失礼ながら店舗は今はまだ殺風景ですが、言い換えればこれからなんでもできるという事ですから、スタッフやお客様と一緒にいろんなことを考えて、生まれては消え、生まれては消え、 楽しく発展していったらいいなと感じました。
薄羽:僕が学生時代の時に習ったことで、創発戦略っていうのがあって。
どういうのかというと、戦略とかそういうものは、最初にカチっと目標を決めて、それに沿って必要なことを積み上げていくんじゃない。
昔、安定した環境ではそれが良かったんだけれど、 今はそういう状況じゃなくて、世の中が劇的に変わっていくんだから。
だったら草の根的にその都度必要な戦略を変えていくべきだと。
コンセプトや目的ないし目標は都度定めておいて、 その中で戦略っていうのは柔軟に作られていくんじゃないかと考えていまして。
迷走しているようにも見えますけど、一応お客さまの要望やニーズに応えていくことが長くやっていく上では必要なのかなと思います。
今日は貴重なお時間をいただいてありがとうございました。これからのお店作りもどうぞ応援させてください。
薄羽:ありがとうございました。