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益子の人

ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作

2023.11.21自然体で作れる商品を。

本日は、益子でパンやアイスクリームを作っていらっしゃる、田村大作さんのところにお邪魔をしています。よろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。

田村 大作 田村大作と申します。よろしくお願いします。

全部が自分の中での一つ

ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作

田村さんは色々な種類のお仕事をなさっていますが、改めて伺ってよろしいですか?

田村 大作 えー、基本的には僕は自分の事を料理人だと思ってまして。パン工房Boulange(ブーランジュ)770。アイスクリーム工房Glacée(グラッセ)770。それらを売る店舗がWORK SHOP 770で毎週日曜日だけオープンしています。益子町の山本地区の3つの建物を僕がぐるぐる、あっち行ったりこっち行ったりして、色々作っています。

パン工房Boulange(ブーランジュ)770
パン工房Boulange(ブーランジュ)770
パン工房Boulange(ブーランジュ)770

宇都宮でもお仕事をされていると聞いていますが。

田村 大作 はい、宇都宮短期大学附属高等学校の調理科で、高校生と一緒に料理を作っております。

調理科の講師ということですね。もう勤められて長いのですか。

田村 大作 そうですね。今年で15年目になります。

高校生たちにはどんなお料理を教えていらっしゃいますか。

田村 大作 1年生には中華料理を担当してます。2年生には洋食で、半分イタリアンで半分フレンチを教えています。3年生には同じく洋食で、フレンチを教えてます。

高校生の講師のお仕事と、自分の3つ建物でパンを焼いたりアイスを作ったり、それをご自分の店舗で販売したり、すごく大変だなと思うのですがやれる秘訣はどんなところにあるのでしょうか。

田村 大作 全部一度にはできないです。 要はテレビのチャンネルを変えるのと一緒ですよ。手軽にこう、「あ、今日は中華料理を 教える日だ」帰ってきたら「今日はこれからアイスを作る日だ」とか。自分の中でチャンネルをただ変えてるだけなので、そんなに忙しいとか苦痛とかは思ったことないです。

休日などが無くなって、大変じゃないですか。

田村 大作 一般のお勤めの方の様に、休みとか仕事っていう区別は自分の中では無くてですね。全部が自分の中での1つになってるので、例えば草刈りとかゴミ出しとか、そういうのも自分の中の『田村大作』として全部ぐるぐる回ってます。

なんだかすごく魅力的に聞こえますね。

田村 大作 実際、田舎で暮らすのは金銭面では色々大変なところもあります。目先のお金に飛びつきたい気持ちもあったんですけど、そういう気持ちはなるべく自分の中で抑えて、長い目で見てどうしたら継続できるか。 自分の中のキーワードとして最初から『継続』がありました。

自分たちのスタイルで出来る事、目の前のことを

田村さんは元々、益子の生まれなのですか?

田村 大作 いえ、僕は東京の東村山市の出身で中学2年までいまして。3年生になるときに、 栃木県の宇都宮に引っ越してきて、今講師で行っている宇都宮短期大学付属高校の調理科に入学しました。

元々生徒さんだったんですか。母校で教えていらっしゃる訳ですね。

田村 大作 そうです。僕も生徒だったので、今の生徒の気持ちがなんとなくは気持ちわかるというか、はい。

益子にいらっしゃったのはどんなきっかけだったのですか。

田村 大作 たまたまなんですけど、益子のペンションの方がコックさんを募集していまして、雇ってもらえたのが始めです。3年間そこでお抱えコックさんをやらせてもらったんですけど、オーナーの方が不幸にも亡くなられてしまって。 家内とも話したのですが、それで独立という形になりました。本当はまだ結婚して最初の年だったので、 お勤めをした方が家内のご両親にも安心させられて良いんだろうなっていうのは、わかってたんですけどね。夫婦で話した時に、お勤めをすると、ひょっとしたらこの場所に居る意味、作る意味がないんじゃないかって思って。

益子にずっと居たいと思った、という事ですね?

田村 大作 今までの料理人生活では、お店を移るたびに住む場所が変わってたんです。どうしても仕事の場所を優先して近くにアパートを借りて、という考え方だったんですけど。この益子の山本という土地に立った時に、あ、すごくいい場所だ。ここにずっと住めたらいいなって思ったんですね。それなので、この後どこかに引っ越す予定も願望もないし、意味もないと思ってて。 それなら自分たちのスタイルで出来る事、目の前のことを1個ずつやっていこうっていうことで。まあ正直、その時はあまり形になってなかったんでね、何がどうスタイルなのかなんて自分たちでもよく解らなかったんですけど、はい。

益子のどんなところが田村さんを惹きつけたのでしょう?

田村 大作 ペンションのコックさんの頃、益子町のおんぼろアパートに住んでいたんですけど、山本地区で有機農業のレタスをやってる藤田農園さんの畑にレタスを仕入れに伺っていて。その時のレタス畑から見た風景が、すごく自分の中で印象に残ってて。あー、この場所に住めたらいいなって。漠然となんですけど。

料理を作るのも、建物を作るのも、作品を作るのも、全て一緒の流れ

田村さんはご自分のお仕事の特徴的なところ、ちょっと面白いところはどんな部分だと思いますか?

田村 大作 一般的には、二足のわらじを履くと良くないとかね、言いますよね?

ええ、よく言いますね。

田村 大作 副業すると意識が分散してしまうと。確かにそれは合ってるんですけど、 僕の中はただ場所が変わる、調理場が変わるだけで、 僕自身としてはそんなに大した変化ではなくて。
目の前に高校生がいるのか、僕がここで一人なのかの違いだけで、 そんなに大きな違いではなく。
食べ物以外の時も、木工作品も前は作ってたんですけど、包丁がノコギリに変わるだけで、僕の中でそんなに大きな変化ではなくて。

面白い話ですね。ノコギリを持ってしまうと随分違うような気がしますけど。

田村 大作 物を作る時に、必ず作り手の人はイメージをすると思うんです。作る段取りだったり、完成図だったり ね。それは料理を作るのでも、建物を作るのでも、作品作るのでも、全て一緒の流れだっていうのが自然と分かってきて。ですから、二足のわらじ、三足のわらじを履いてる意識がないっていうのが前提ですね。

アイスクリーム工房Glacée(グラッセ)770のアイスクリーム

お店のカタログを拝見していると、多様な商品が書いてありまして、例えばアイスクリームは47種類以上あると書いてあります。

田村 大作 まあ、季節の商品も含めてですね。

どうしてお一人でこんなに色々なものを作れるのでしょうか。

田村 大作 うーん、正直お客様はマイナスのイメージを持ってしまうかもしれないんですけど…。僕はアイスクリーム屋さんでも働いたことがないし、パン屋さんでも働いたことがないし、ケーキ屋さんでも働いたことがないのでね。一般的な考え方からすると、すぐ潰れるぞって思われるでしょう。それがまあ正当な考えですよね。修行するメリットっていうのは、技術、知識が身について、それを元に自分で独立ができるというね、それは確かに合っているんですけど。 結局、そこの親方、先輩から教わった 技術、商品、品物。それを自分で複製してるようなところが強く出ちゃうんじゃないのかなって思ってまして。 じゃあ、ゼロからやればどうか?それは自分で考えて作るしかないので、面白いものができるんじゃないのかなって。

そういった自由な発想が、この商品の多様さに繋がっているのですね。

ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作

レシピは絶対ではない

アイスクリームの種類を拝見しますと、桑の実や柚など珍しいものが沢山目に入ります。ブルーベリーやバナナは益子でも生産されていますよね。商品は益子産のものが多いのでしょうか?

田村 大作 基本的には益子の果物、野菜を使ってと思ってまして。1割ぐらいは県内近隣の食材も扱っています。

9割が地の物とは、凄いことですね。

田村 大作 そんなに特別なことではなくて、その季節になると、野菜や果物は実がなるわけなんですけど、それを僕が農家さんのところに行って分けてもらう。すごくシンプルな形です。それを自分の中で、これをアイスクリームにするにはどうやって作ろうか、レシピはどうしようかって考えるのも結構面白い。

ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作

取材日に製造していたアイスクリームに加えていた果実は、なんとポポー。市場に出回らない果実も、益子では手に入る。

一つ一つちょっとずつ分けてもらって、それから頭の中でレシピを組み立てて、新しい商品になっていく。

田村 大作 レシピも絶対ではないって思ってまして。作り続けて何年も経つんですけど、僕も年齢とともに味覚や思考が変わってきていることに気付くんですね。それなのに、レシピだけが同じっていうのも何だかおかしな話なのかなって。 正直お客様にはわかんない範囲内なんですけど、レシピは絶対ではなくて、あくまでも基準というか。常に変えてもオッケーっていうのはあります。

自由さがあって、とってもいいですね。 そういったアイスクリームやパンですが、どんな方々がお買い求めになって楽しんでいますか。

田村 大作 そうですね。パンは天然酵母パンに絞って、アイスは無添加アイスクリームに絞っているのもあり、自然派志向の方がほとんどだと思います。 でも、いわゆるオーガニックという様なくくり方はしていません。益子の農家さんはもっと自然体で作っている方が多いですから。何かの認証、枠組みなんていりません。 僕が自然体で作れる商品を気に入ってくれる方が、日曜日だけなんですけど、買いに来てくださっています。

思い思いの楽しみ方

最後に、今話題に出ました、週に1度、日曜日だけ開店しているWORK SHOP 770について伺いたいと思います。入口はちょっと坂を上った、一見入りづらいところにありますよね。商品も少しずつ、その時に並べられる分だけのものが並ぶ。まるで等身大の田村大作そのもののようなお店です。

ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作
ギャラリー WORK SHOP 770 田村 大作

お店の良さも、やはり自然で自由なところなのでしょうか?

田村 大作 そうなんです。来てくださった方は思い思いに楽しんでますね。お店から景色を見ると、山と田んぼと畑しかないのでね。もう皆さん、理屈抜きにのんびりしていってくださる方が多いですね。 あとね、お忍びで芸能人の方もいらっしゃったりもして。ま、気づいても声がけとかあんまりしないように心がけてます。みんなやっぱり、田舎にお忍びで来る方っていうのは、のんびりしに来てますから。写真撮られたりとかはうんざりしている方もいると思うので、そういう事も気を付けてます。

最後の質問になります。今後の「田村大作」はどのようになってゆくのでしょうか?

田村 大作 次は、うちの家内の細工をする工房を建てられたらな、と思ってます。

奥様は美術方面の造詣が深いのでしたね。

田村 大作 絵を描いたり版画を作ったり。焼き物も。そんな工房ができたら、と。 自宅兼仕事場みたいな形で、半分は住まいで半分は家内の細工と、僕はピザ釜を作ったりコーヒーの焙煎場所を作ったり、食べ物をずっと作って楽しめて、なおかつ仕事としても欲しいっていう方にはお分けできたらいいなって思っています。

今日は、益子の素晴らしい生き方、暮らし方を垣間見るインタビューになりました。ありがとうございました。

田村 大作 どうもありがとうございました。

  • 聴き手:加藤 拓
    益子町商工会 経営指導員